医療従事者向け ポケットガイド

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アドレナリン投与のタイミング

更新日時: 2017/08/10  カテゴリ: ポケットガイド, 心肺蘇生

AHA(American Heart Association)の心肺蘇生ガイドラインは5年ごとに更新されています。2015年版ガイドラインにおいても、いくつかの重要な追加事項があり、今回はそのことについて述べたいと思います。

まずは確認ですが、次のシチュエーションにおいて、あなたはどのように行動しますか?

56歳男性、既往は特になく昨日に右足の蜂窩織炎で皮膚科入院となっていました。朝、看護師さんが患者さんと話をしていると急に患者さんの意識がなくなり、反応がなくなりました。すぐに救命科にCallしました。看護師さんが脈を確認すると触れず、呼吸も認めなかったのですぐにCPRを看護師さんが開始しました。30秒後、各種モニターをとりつけたところで救命医のあなたが到着しました。心電図はVF波形。脈は触れません。※右手に22Gのラインが挿入済。

Q. さて、次にあなたは何をしますか?次の選択肢から選びなさい。

 
  1. そのまま胸骨圧迫を継続。2分後に波形がVFであれば電気ショックを施行し胸骨圧迫を再開。その後すぐにアドレナリンを投与する。
  2. 胸骨圧迫を継続しつつエピネフリン投与をすぐに行う。また投与直後に電気ショックを施行する。
  3. すぐに電気ショックを施行し胸骨圧迫を再開。その後すぐにエピネフリンを投与する。
  4. すぐに電気ショックを施行し胸骨圧迫を再開。2分後に波形チェックをしてVFであればまた電気ショックを施行し胸骨圧迫を再開。その後すぐにエピネフリンを投与する。






そうです。答えは4です。3と勘違いされた方が多いのでは?と思うのは僕だけでしょうか。

今回の2015ガイドラインで新しく追加された項目の1つとして、“初期の非ショック適応リズムによる心停止後、エピネフリンを速やかに投与することは妥当である。”というものです。しかし、2010ガイドライン同様に、“ショック適応リズムによる心停止後、除細動とエピネフリン投与の最適なタイミングは決まっていない。エビデンスが不十分である。”は同様に継続されています。

つまり、「心電図波形がasystole(心静止)とPEA(無脈性電気活動)であれば早期にエピネフリンを投与するべき。しかし心電図波形がVT(心室頻拍)とVF(心室細動)の場合は、エビデンスが不十分なためエピネフリンをいつ投与するべきか、決まっていない」ということになります。AHAのstatementをそのまま引用すると、
“It may be reasonable to administer epinephrine as soon as feasible after the onset of cardiac arrest due to an initial non-shockable rhythm.”And ”There is insufficient evidence to make a recommendation as to the optimal timing of epinephrine, particularly in relation to defibrillation, when cardiac arrest is due to shockable rhythm, because optimal timing may vary based on patient factors and resuscitation condition.”
となっています。

これを受けて、AHAのACLS(Advanced Cardiac Life Support)では、後者については心停止の心電図波形がVT/VFであった場合は、まず早急に除細動を行うが、その後すぐにはエピネフリンを投与せず、2分後のリズムチェックを経て、次のインターバルになって初めてエピネフリン投与を実施する、というコンセンサスを採用しています。

注射器イラスト今回、この事を取り上げたのは、

①「エピネフリン投与の時期」は、我々の臨床行動に直接影響すること。

②上記のようにエピネフリンの投与時期として“It may be reasonable to administer epinephrine as soon as feasible after the onset of cardiac arrest due to an initial non-shockable rhythm”の項目が追加となったこと。

③しかし、問題にも示したようにショック適応の波形ではすぐにエピネフリンを投与していいというわけではなく、また、すぐに投与することが推奨されていると勘違いしている医師も多いこと(以前の僕を含めて)。

④完全な私見ですが、2015年以降も徐々にエビデンスが蓄積されており、ショック適応波形時には早期のエピネフリン投与よりも、2回目、もしくは3回目の電気ショック後のエピネフリン投与のほうがROSCを含めて予後を改善するといった報告があることから、次回、もしくは次々回の改定ではショック適応波形時のエピネフリン投与時期についてもしっかりとしたRecommendationが追加されることが予想されること。

④については僕の私見でしかありませんが、心肺蘇生の世界はエビデンスに合わせて少しずつ変化しています。そして、この流れから取り残されないように、日々勉強したいと思います。(文責:阿部/新井)

 

COPDの急性増悪

更新日時: 2017/07/20  カテゴリ: ポケットガイド, 呼吸器

COPDの急性増悪(病態と治療)

COPDの病態は気管支粘膜の腫脹と肺胞の破壊であり、
「急性増悪」とはCOPDが急激に増悪した状態を指し、臨床的には、

  1. 労作時呼吸困難悪化
  2. 咳嗽増加
  3. 気道分泌物増加

などを指します。

よくある誘因として、

  1. 気道感染
  2. 肺炎
  3. 気管支攣縮(タバコ、粉じん、大気汚染、ウイルス性上気道炎)
  4. 心不全
  5. 気胸
  6. 肺塞栓

などがが挙げられます。
多くは感染が誘因となりますが、明らかな感染症が無い場合、上記4-6を考慮します。

COPD急性増悪の治療は、ABCアプローチが治療の基本です。

 A Antibiotics(抗菌薬)
 B Bronchodilators(気管支拡張薬)
 C Corticosteroid(ステロイド)

Antibiotics(抗菌薬)について

抗菌薬ですが、COPD急性増悪の誘因の気道感染で問題になる菌としては、肺炎球菌、モラキセラ、インフルエンザ桿菌を考慮します。入退院を繰り返す患者さんではMRSAや緑膿菌も考慮します。すなわち、まずはCTRX2gq24hもしくはABPC/SBT1.5-3gq6hで開始します。緑膿菌カバー必要な場合はCFPMTAZ/PIPCを選択します。投与期間は定まったものは無いものの、5-7日間の投与とそれ以上の期間の投与で差は無いと言われています。

Bronchodilators(気管支拡張薬)について

気管支拡張薬ですが、短時間作用型吸入β2刺激薬(SABA)がCOPD急性増悪の治療の要です。SABAには、®サルタノール、®アイロミール、®メプチン、®ベロテックなどがあります。吸入方法は加圧式定量噴霧式吸入器もドライパウダー吸入器もネブライザーも効果に違いはありませんが、入院を要するような患者さんでは手技の問題でネブライザーが良いと思います。

短時間作用型吸入抗コリン薬(SAMA)は®アトロベントや®テルシガンエロゾルですが、SABAと併用することがありますが、明確な効果が示されているわけではありません。
また、アドレナリン皮下注は不整脈や心筋虚血のリスクがあるため、COPD急性増悪に対しては推奨されていませんが、吸入がうまく出来ない場合は、やむなく使用することもあります。

気管支拡張薬の治療効果判定ですが、

  • 頻呼吸が落ち着いているか.
  • wheezeや呼吸音が改善しているか.
  • 呼吸補助筋使用が改善しているか.
  • 気道抵抗(吸気ピーク圧-吸気プラトー圧が)改善しているか.(正常は10以下)
  • 呼気時間短縮やピークフロー改善しているか.
  • auto-PEEPが改善しているか.

等をもって判定します。

Corticosteroid(ステロイド)について

コルチコステロイドですが、プレドニゾロン経口またはメチルプレドニゾロン点滴静注40-80mg/day(5-7日)が推奨されています。ステロイドは、経口も経静脈投与も効果に変わりはないとされ、抗炎症作用や粘液分泌・気管浮腫の改善の他に気管支拡張薬への反応を高める作用があるとされています。また、投与量や投与期間を増やしても効果に変わりなく、中止の場合、減量の必要がないとされています。 その他、COPD急性増悪時の治療薬として、アセチルしステイン(®ムコフィリン他)、アンブロキソール塩酸塩(®ムコソルバン他)などの喀痰溶解薬は、COPD急性増悪時に使用しても治療期間の短縮などの効果は無いが、症状改善の可能性はあります。

メチルキサンチン誘導体(®テオフィリンなど)は、COPDに関しては第2選択薬とされていますが、気管支拡張薬吸入、ステロイド投与と比較して効果に乏しく、めまい、嘔吐、振戦、副作用のリスクが高いとされています。

酸素療法について

酸素療法ですが、PaO2<60mmHgもしくはSpO2<90%の場合に酸素療法の適応ありとされています。pH<7.35もしくはPaCO2>45mmHgの場合は、換気補助療法を考慮します。補助換気療法の第一選択はNPPVです。high flow therapy(HFT)はNPPVと比較して3か月後の死亡率低下、挿管に移行する症例の減少が報告されています。HFTは軽度のPEEP効果、上気道の洗い流しによる換気の改善が認められ、COPD急性増悪の際の内因性PEEPや気道分泌物増加に対応できるとされています。今後HFTが普及してゆくことが予測されます。これら非侵襲的補助換気の効果なければ、躊躇せず気管挿管し、侵襲的換気療法に移行します。

改善時期の治療について

さて、急性期治療が奏功し、その後徐々に改善する時期の治療ですが、急性期治療で呼吸状態や全身状態が改善した場合、再発予防の為に長時間作用型気管支拡張薬を開始します。これは、基本的にステロイドの投与が終了するまでに導入します。具体的には、長時間作用型吸入β2刺激薬(LABA:®セレベント、®オンブレス)と長時間作用型吸入抗コリン薬(LAMA:®スピリーバ)が有効です。LABA、LAMAはCOPD急性増悪予防効果、QOLの改善効果の双方ともが認められていますが、LAMAの方が良好といわれています。すなわち、最初に使用するならLAMAが良いのですが、ただし緑内障や前立腺肥大に注意が必要です。また、LAMAとLABAの合剤(®ウルティブロ)は、コントロール不良なCOPDに良い適応とされています。

最期に、いわゆるasthma-COPD overlap syndromeでは吸入ステロイド(ICS)の効果が期待できるため、COPD急性増悪と違い、ICSを第一選択として導入します。(文責:坪内/新井)

 

レミエール症候群

更新日時: 2017/07/14  カテゴリ: ポケットガイド, 感染症

レミエール症候群(以降LSと記載)とは、上気道感染に引き続く内頚静脈血栓および菌血症、さらには敗血症性肺塞栓までを一括りにした症候群であり、約80年前(1936年)にフランスの細菌学者レミエール博士が自験例20例をもとに報告したものです。内頚静脈の化膿性血栓は肺だけ でな く全身に遠隔転移し、転移性の膿瘍や塞栓を形成し、種々の症状を呈します。この先生、よく20例も集めたと思いますが、それもそのはず、当時はまだペニシリンなどの抗菌薬が登場する前の時代だったのです。

1960年代になり上気道感染にペニシリンなどの抗菌薬が使用されるようになるとLSの罹患率は急激に減少し、“忘れ去られた病気(forgotten disease)”と呼ばれるようになりました。しかし1990年代から再び罹患率が増加したのは、上気道炎に対する抗菌薬の使用が制限されるようになったことが原因ではないかと推測されています。起炎菌は口腔内の常在菌であるFusobacterium属(F. necrophorumが主)が圧倒的に多く(90%)、一般に、血液培養でこの菌が検出されることが、本症の診断根拠となります。

初期症状は咽頭痛、頸部痛、発熱などの上気道炎症状ですが、この段階でLSが疑われることはなく、その後の内頚静脈の血栓性静脈炎の症状(頸部痛、頸部腫脹)や、それが遠隔転移した諸症状をもってLSが疑われます。諸症状とは、血栓性肺塞栓症による呼吸困難が重要ですが、その他にも、肝膿瘍の存在、化膿性脊椎炎による腰痛、脳膿瘍による症候性てんかん、などなど多彩な症状・所見を呈します。加えて血液培養からFusobacterium属が検出されることで本症の診断に至る、という診療のストーリーになります。

本症は小児や易感染性宿主(高齢者や基 礎疾患保有者)にも発症しますが、好発するのは30代前後の健康成人とされています。健康な成人が咽頭炎をこじらせて、非常に重篤な症状やバイタルサイン(ショックやSpO2低下など)を呈して来院するケースでは、本症を鑑別に挙げる必要があります。治療は、βラクタマーゼ耐性、および複数菌感染を考慮して、初期はABPC-SBTなどの広域βラクタマーゼ阻害剤が選ばれますが、Fusobacterium属と確定された後はメトロニダゾールの有用性も多く報告されています。(文責:佐野/新井)

参考リンク:http://appliedradiology.com/articles/lemierres-syndrome
(内頚静脈血栓と敗血症性肺塞栓のCT写真はこちら)

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