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マムシ咬傷

更新日時: 2013/01/09  カテゴリ: ヘビ咬創, ポケットガイド

関東で、「ヘビに咬まれて<急に>腫れてきた」といえば、マムシを考えて治療します。というのも、日本では毒蛇といえば、マムシ、ヤマカガシ、ハブの3種のみであり、ヤマカガシは咬まれてもすぐには腫れない特徴があり、ハブは沖縄在住のヘビだからです。

マムシの外見は、かなり個体差があるらしく、地元の人でも見間違えるので、あまり外見はあてになりません。ただし、一応、マムシと言えば、「褐色地に丸描いてちょんの斑点」というのは有名なので知っておきましょう。

牙痕(咬んだ痕)は、「マムシなら1~2箇所」、「それ以上なら他のヘビ」、とされてきましたが、マムシでも4か所程度の牙痕が残ったり、牙痕が不明瞭なことも多いです。

したがって、牙痕は参考にはなりますが、決定的な鑑別手段ではありません。マムシ毒が注入されると、数分以内に腫脹・疼痛を認めます。30分経っても腫脹・疼痛がなければ、マムシは否定的です。手指の先端をやられた場合、2~3時間で手背がパンパンに腫れますが、この「所見の派手さ」がマムシの最大の特徴です。

マムシ咬傷は、現在の日本でも年間10名弱が死亡するほど、重篤化した際は致死的です。局所の派手な腫脹や皮下出血は、マムシ毒による血管透過性の亢進や、止血阻害因子によるものです。また著しい組織傷害により高CPK、高LDH血症に至ります。

脱水(サードスペース)やミオグロビンにより腎機能が障害されやすいため、重症例には尿量を指標とした輸液が必要です。マムシ毒は時にショック(心抑制も含む)を引き起こし、血管内皮障害から、DICやMOFに至るため、重症例にはICU管理が必要です。

現在用いられている重症度分類は、純粋に、「腫脹部位の進展のみ」で評価します。

  • gradeⅠ 局所のみの腫脹
  • gradeⅡ 手・足関節まで
  • gradeⅢ 肘・膝関節まで
  • gradeⅣ 肢全体におよぶ腫脹
  • gradeⅤ それ以上または全身症状を伴う腫脹

その他、受傷後早期よりCPK、LDH、GOTなどの逸脱酵素が増加する症例は重症度が高く、ミオグロビン尿(褐色尿)も同様です。マムシ神経毒による眼症状(複視、眼瞼下垂)は自然に改善するものの、眼症状の出現は重症化を予測する因子とされています。

処置について

キャンプ場など、咬まれた現場での処置としては、①静脈圧程度の駆血、②絞り出しや吸い出しによる排毒、が推奨されています。牙痕に沿って5mm程度の小切開を置くことは、現場でも可能なら実施します。局所の洗浄も重要です。

来院後どの時点で駆血を解除するかは、「セファランチンを投与した後に解除する」と記載されています。たしかに、何らかの抗毒素治療を開始した後に解除するのが理にかなっています。駆血中に患肢から採血を行えば、「脱血排毒」の意義があるそうです。

来院後の局所処置は、 ①牙痕に沿った5mm 程度の小切開(大きく切開する必要はない)、②洗浄、などですが、
並行して全身投与の、③抗菌薬(第一世代セフェムなど)、④強ミノ、⑤セファランチン、⑥ステロイド、⑦抗毒素血清、を考慮します。

セファランチンについて

セファランチンは、もとは薬草から抽出された生薬ですが、実験室的ににマムシ毒に対する効果が証明されています。副作用が少ないので投与しやすいクスリです。1A=10mgですが、「基本は1日10mgを投与」、「症状に合わせて適宜増減」となっています。

セファランチンは、以前は高容量投与が行われていたようで、文献的には60mg/日程度の投与が散見されます。小児への投与については、体重当たりの投与量に関する記載はありません。担当医が適宜決定して(たとえば5mgとか)投与することになります。

抗毒素血清について

抗毒素血清はウマの血清なので、アレルギー反応が欠点です。即時型のアナフィラキシーと、Ⅲ型(免疫複合体による)アレルギーに分類され、後者を血清病といいます。血清病は数日~数週間後に発症する腎炎や関節炎が特徴で、ステロイド治療を要します。

抗毒素血清の投与適応は、そのメリットとデメリットを勘案した結果、「短時間でgradeⅡ以上に達した症例」というのが通説です。抗毒素血清は6時間以内に投与するのが原則で、準備する時間を考慮すると3時間くらいで投与の判断を下さねばなりません。

抗毒素血清の皮内反応(アレルギーテスト)は、現在ではその信憑性が疑問視されており、多くの施設で実施されていません。代わりに、ハイドロコートン200~500 mgを抗血清の投与に先行して点滴投与することが、推奨されています。

ハイドロコートンは、抗毒素血清とは関係なく、マムシ毒に対する抗炎症作用目的に投与することが推奨されています。強ミノも同様です。つまり、抗菌薬、ステロイド、強ミノ、セファランチン、はルーチンで投与します。小児期以降は、破傷風トキソイド、テタノブリンも、ルーチンで投与します。

抗毒素血清は、1A=6000単位の粉末を、添付の溶剤20mlに溶いた後、さらに生食100~200ml程度に希釈して、1時間程度かけて投与するのが安全です。投与中にアレルギー反応が出現したら直ちに中止します。

1回目投与の後、臨床的改善がなければ、2時間後に3000単位 or6000単位の追加投与を行います。24時間、あるいは48時間経過した症例でも場合によっては追加投与する、と記載されています。本剤は、小児投与量の記載がないため、適宜減量してください。

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上記治療に関わらず、手背や足背の腫脹が著しく、血行障害(神経麻痺)を認める場合は、減張切開が必要です。マムシ咬傷において減張切開は不要な場合が多い、という記載もありますが、明確な判断基準がないため、適宜、形成外科医との相談が必要です。

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参考文献
  1. マムシ咬傷の治療法の変遷 瀧健治 新薬と臨床 J.New Rem. And Clin. Vol.55 No.2 2006
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